わが国金融機関への期待
これを書いたのが、民間の金融機関でIT業務に従事している人間ではなく、それを監査する側の日銀出身の方が書いたというのが、非常に面白く興味深い。
数か月前に、ここ20年の間に、金融機関を取り巻くビジネス環境がどう変化し、それを支えるIT技術がどう変遷し、その中で、自分達が開発・保守しているシステムが、どう変化してきたかをまとめて、その中で、歴史的な背景から、今後の展望までを深く考察する機会があった。(というか、勝手にそういう仕事をしていたのだが・・・)
もしこの本を先に読んでしまっていたら、結構内容をパクっていたような気もするのだが、順番が逆だったので、自分の頭で考えられたのは幸いだった(笑)。
2000年あたりから、Y2Kやシステム統合に伴う大規模障害を受けて、あきらかにシステムに求められるリスク管理のレベルや、プロジェクトへの外野からの要求水準が上がり、「障害0件が当たり前」という風潮が強くなっている。
確かに、これを契機に、プロジェクトマネジメントのレベルが上がり、アカウンタビリティを果たすスキルも上がるといったようないい面もあるのだが、正直、「金融機関でシステム障害が起きたら、人が死ぬんかい!?」と言いたくなるような過度な要求も多々ある。
そんな状況に警笛を鳴らし、監査する側の人間が、本質的で実効性のあるリスク管理等の実践方法を提示しているのが、なんとも面白い。
読みごたえのある良書でした。
(備忘録はこちら↓)
1.10個のバランス問題
①攻めと守り
②スピードとクオリティ
③経営効率と戦略適合性
④事前予防と事後対策
⑤サービス水準・利便性とコスト負担
⑥公共性と収益性
⑦時代変化に適合したルール設計と市場の自由や自己規律
⑧テクノロジー(技術)とマネジメント(人)
⑨自前(内製)とアウトソーシング(外部委託)
⑩メインフレームとオープン・クラウド系システム
2.金融機関の位置づけ
一企業としては営利主体だが、それらが組み合わさった決済システム全体としては公共インフラ
3.アウトソーシング
「勘定系システムは皆同じで差別化が難しい」「だからアウトソーシングに適する」という定説の真偽は怪しい。
仮に収益の大半を生む業務が戦略的でないとすれば、そうした金融機関の存在意義はどこに求められるのか?
顧客から見て、魅力的な商品・サービスの開発で競争するのが本筋。
「決済機能は金融仲介と並ぶ本来業務」であり、「決済は情報処理そのもの」との理論から、「内製が自然」との帰結も浮かんでくる。
4.システム共同化
一般的には、3割程度のコスト削減を標榜している例が多い。(実現性は別として)
<デメリット>共同化に伴う事務フローや商品・サービスの共通化は、深く考えて「自社の文化を捨て、暗黙裡の経営統合に向かう」に近い大きな意思決定と捉える必要あり。
<体制>
・寄り合い所帯的な意思決定の遅さと意思決定構造の複雑さ
・主導権(リーダーシップ)の分かりにくさ
・ベンダーへの安易かつ過度な依存
・これらに伴う業務要件決定の難しさとシステム要件の膨張
・この結果、割高なシステム設計や料金設定
5.BCM(事業継続の目的)
①決済システムのため=決済面での混乱拡大の抑制(システムミックな連鎖の防止)
②顧客のため=被災地等における住民の生活や経済活動の維持
③自社のため=金融機関経営におけるリスク(収益機会逸失や評判低下)の軽減
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